真紀(仮名)47歳主婦
東京郊外の一戸建てで夫と二人暮らしをしています。結婚前は事務職として働いていましたが、現在は専業主婦として日々を過ごしています。
週末によく娘が帰ってくるのが楽しみですが、平日の昼間は一人で過ごす時間が長く、誰かと会話をする機会は多くありません。
年齢を重ねるにつれて、誰かに存在を意識されたい、近くで温もりを感じたいという気持ちを、心のどこかで抱くようになりました。そんな中で出会った配達員の彼は、日常に小さな変化をもたらす存在になっています。
40代になってから、誰かに触れる機会は驚くほど少なくなりました。
家族はいるけれど、肌に触れるような距離感とは少し違う。
そんな毎日の中で、思いがけず心と体が反応したのが、配達員の彼との出会いでした。
彼は20代。
荷物を受け取るたびに、自然と距離が近い人でした。

玄関という限られた空間で、手渡しの瞬間に指が触れたり、すれ違うときに肩が軽く当たったり。
最初は、ただの偶然だと思っていました。
でも、何度も顔を合わせるうちに、私は気づいてしまったんです。
彼が、ほんの少しだけ近くに立つこと。
荷物を渡したあと、すぐに離れず、視線を合わせてくること。
ある日、段ボールを受け取るときに、彼の手が私の手の上に重なりました。
ちゃんとした大人同士の出会いに✨

一瞬なのに、体温がはっきり伝わってきて、そのまま離れるのが名残惜しくなってしまって。
「……重いですね」
そう言いながら、彼は手を引かず、私の指先を包むようにしてくれました。
そのまま、玄関のドアの前で、自然と距離が縮まっていきました。

彼の腕が私の背中に回り、私は彼の胸元に軽く額を寄せる。
服越しでも分かる呼吸や、身体の温もりが、静かに重なりました。
ほんの数秒。
それなのに、誰かに「触れられている」という感覚が、胸いっぱいに広がったのを覚えています。
それからは、配達のたびに、少しだけスキンシップを交わすようになりました。
手を取られる。
腕に触れられる。
短く抱き寄せられて、背中をなでられる。
言葉はほとんどありません。
でも、触れ方で気持ちが伝わる、不思議な関係でした。
「また来ます」
そう言って彼が去ったあと、玄関に残る余韻が、しばらく消えません。

しかしんどんどんエスカレートして、いつしか彼が来るのを心待ちにしていました。
日常の中で忘れていた、誰かの温度や鼓動を、確かに思い出させてくれる時間。
40代の私にとって、この玄関先でのスキンシップは、心をそっと満たしてくれる、大切なひとときです。
おわり
