子どもたちは独立し、夫も相変わらず仕事一筋。
家事はあるけれど、毎日に“ハリ”のようなものがなくて、
スマホをぼんやり眺める時間が増えた頃。
ふと、何気なく出会い系アプリをインストールしてみました。
期待も不安も、どちらも薄かったはずなのに、思いのほかメッセージは届きました。
でも、多くはちょっと軽すぎて気が乗らない。
そんな中、30代の会社員という彼のメッセージは、不思議と読みやすくて丁寧で、やり取りが心地よく続いたんです。
「お互い無理なく、気楽に会ってみませんか?」
そう言って提案してくれたのは、平日の午後、駅前のカフェでの短いお茶タイム。
私も用事の前に少しだけ時間があったので、「30分くらいなら」と会ってみることに。
正直、会う前は少し緊張していて、メイクも洋服も久々に“人目”を気にしました。
駅で待っていた彼は、紺のスーツにコーヒー色の革靴を履いていて、仕事帰りか休憩中のような雰囲気。
にこっと笑って「こんにちは」と言われた瞬間、不思議と肩の力が抜けたのを覚えています。
カフェでは、お互い無理に話そうとしなくても自然と会話が続いて、
家族のこと、仕事のこと、趣味のこと…思っていたよりずっと穏やかで、気づいたら予定の時間が近づいていました。
「もう少しだけ、お話しできますか?」と彼が言った時、
なぜか断る理由が思い浮かびませんでした。気づけば、彼の運転する車の助手席に乗っていました。
近くの公園の駐車場に停めて、コンビニで買った缶コーヒーを飲みながら、
エンジンを切った車の中で少し静かな時間が流れました。
BGMもテレビもない車内で、お互いの気配だけが妙に近く感じられて、ちょっとした沈黙さえも心地よかった。
ふと、彼が「…なんか、落ち着きますね」と言って、私の手にそっと触れました。
びっくりしたけど、拒むような気持ちは湧いてこなくて、そのまま手を握られました。
次の瞬間、彼の顔が近づいてきて、気づけば軽くキスをしていました。
驚くほど静かで、あっけないくらい優しいキス。
そのあとも、彼は無理に何かしようとはせず、ただ抱き合っていました。
「もうそろそろ戻らないとですね」と言ったのは私の方でした。
ほんの30分の再会だったけど、クルマの中でのその短い時間は、今でもふとした瞬間に思い出します。
あれから、彼とは何度かLINEをやり取りしています。
でも、また会おうとか、深い関係になろうという話にはならず、あの“ちょうどいい距離”のまま。
それがむしろ心地よくて、「あのとき、少しだけ誰かにときめいたな」という感覚が、今も私の中で静かに残っています。
家族は何も気づいていないし、私も誰にも話していません。